代表挨拶

新学術領域「3D活性サイト科学」領域代表
奈良先端科学技術大学院大学 教授
大門 寛



 2014年は世界結晶年であり、近代的結晶学の生誕100周年にあたります。約100年前、ラウエ博士はX線による結晶の回折現象の謎を解き明かし、1914年にノーベル物理学賞を受賞しました。「結晶」は宝石や雪など身近に存在します。ブラッグ親子は、食塩の結晶をX線回折により明らかにし、1915年にノーベル物理学賞を受賞しました。その後、結晶構造から原子配列を解き明かすことで物質科学は飛躍的に発展を遂げ、無機材料から有機・タンパク質構造まで立体的な原子配列が分かるようになりました。これにより、生命の営みを分子レベルで理解することで、生命を作り変えたり、薬の設計もできるようになりました。きっと、ラウエ博士もここまで発展するとは思わなかったでしょう。原子配列を見ることで、機能発現機構を理解し、そこから応用や産業につなげていくことがとても重要なのです。
 しかしながら、結晶にならない物質の立体的な原子配列を見る方法はほとんどありません。物質のほとんどは結晶ではないし、また結晶に不純物(ドーパント)を添加することで、初めて機能が発現する場合も多くあります。例えば、シリコン結晶にドーパントを添加して、N型、P型半導体をつくることは普通に行われていますが、結晶の中でドーパントの原子がどのように配列しているかはX線回折では見ることはできません。これまでは、ドーパントの周りの原子配列がわからないまま、手探りの状態で最適なドープ条件を探していたのです。
 結晶中のドーパント、触媒の反応中心、界面の原子構造、光合成の反応中心などは、現代のテクノロジーにとって重要であるにも関わらず、その立体的な原子構造などを直接見るのは難しいのです。
 この「3D活性サイト科学」の「蛍光X線ホログラフィー」、「中性子ホログラフィー」、「光電子ホログラフィー」、「CTR散乱」、「電子線回折イメージング」は、これらの結晶でない物質の原子構造を可視化できます。そして、見ることから本質を理解し、そして大きな飛躍へとつなげることができます。きっと、X線回折の学問が発展した足跡を辿るように発展していくことでしょう。
 2008年に結成された原子分解能ホログラフィー研究会を母体に多くの研究者と活発な研究活動を進めてきました。無機材料、有機材料、バイオ材料など非常に幅広い分野において、物性機能を発現する「活性サイト」を観測し、第一原理計算と絡めて機能発現機構を理解し、そして、より高機能な物質を生成して、産業応用へとつなげていく。「3D活性サイト科学」は、そのような大パラダイムシフトを起こすべく日本の研究者が結集しました。これまでの「結晶」の科学では扱えなかった「非結晶局所原子構造」を対象としてその物理を究明する「活性サイトの科学」を創成することが本新学術領域の目的です。そして、次の若い世代を育て、彼らが主役となって新しい学理を切り開いていくことを期待しています。