代表挨拶

新学術領域「3D活性サイト科学」領域代表
奈良先端科学技術大学院大学 教授
大門 寛



本新学術領域「3D活性サイト科学」は、文部科学省の科研費として一昨年平成26年6月に採択され、平成30年度までの5年計画としてスタートしました。この文章を書いている平成28年9月は、ほぼ半分経過した折り返し点で、中間評価も行われる時期になっています。この2年半における大きな変化の一つは、昨年度から公募班の研究者が16名加わって100名程度の大きな組織になったことです。フレッシュな公募班の方々を計画班の人が補佐して、多くの連携融合研究が進んできています。もう一つの大きな変化は、昨年度から国際活動支援班が追加の助成を受けて始まったことです。国際研究拠点をスウェーデンのMAX-IVに作るための協議が進んでいますし、海外共同研究も進展しています。国際会議も、平成27年4月にドイツで、平成28年7月にスイスで国際アドバイザーの方にも参加していただいて開催しました。
本領域の内容は、ドーパント、界面、そしてナノ物質等、機能性材料中の機能発現の重要な役割を担っている非周期の局所構造「3D活性サイト」について、我が国が誇る「原子分解能ホログラフィー」による3D原子イメージング法を適用し、第一原理計算も駆使し、「3D活性サイト」の機能性を原子レベルで明らかにすることです。このような活性サイトの周りの局所構造は、機能性に本質的に重要な役割を演じていることがわかっていたにもかかわらず、非周期であるために通常の原子構造解析手法であるX線回折法が適用できないため解らずにいたもので、本領域の進展によって初めて明らかにされていくものです。これらの非周期の局所構造を解析する4つの手法「光電子ホログラフィー」「蛍光X線ホログラフィー」「表面界面ホログラフィー」「電子回折イメージング」を駆使して進めています。これらの手法は、最近日本において解析精度が飛躍的に向上したもので、世界を断然リードしています。多くの研究者が組織的に取り組むことにより、「3D活性サイト科学」という新しい局所物性学の新領域を開拓します。これまで困難とされていたソフト・バイオ系マテリアル計測や、触媒反応等での高速時分割計測まで取り組みます。得られた情報を一元化し、活性サイト原子構造データベースを構築することにより、全く新しい材料創製への知見を世界に提供することを目指しています。
総括班においては、「研究戦略策定」、「大型実験施設コーディネート」、「若手育成」、「広報活動」の運営組織を設けて、SPring-8に共通基盤装置プラットフォームを建設・運営して高度な実験環境を整えるとともに、SPring-8の課題申請のサポートや公募班の研究者への実験や解析のサポートを行って融合研究を推進しています。昨年度は総括班会議を9回開催して、領域アドバイザーと学術調査官の先生方の助言を頂きながら領域運営を行っています。公募班キックオフミーティング、3回の成果報告会、5回(15研究室)のサイトビジットにおける現地での研究打合せを行い、領域の共通の目的意識の徹底と融合研究の推進を行いました。また、春の学校、多くのアウトリーチ活動やチュートリアル講義を開催するとともに、優秀な若手研究者や学生にポスター賞を授賞して若手育成に取り組んでいます。領域が発足してから2年程の間に、研究代表者は4名昇進し、学生を含む若手の昇進は100名程度になり、本領域の若手が順調に育っていることがわかります。多くの研究会を共催・協賛するとともに、学部生向けの教科書を出版して、本領域の社会普及に努めています。
領域がスタートしてからの研究成果について要点を述べます。各計画研究班においては、最初に設定した3段階の研究目標(課題1,2,3)が着実に進んでおり、課題1が終わっていて課題2と3が進んでいる段階です。計画班、公募班ともに多くの融合研究が進んでいて、成果も着実に出ています。特筆すべき成果としては、当初実現が疑問視する向きもあった生体分子の蛍光X線ホログラフィーに早くも成功して、ヘモグロビンのFe原子周りの原子配列の直接観察に成功したことがあげられます。放射光照射によるダメージの低減に成功して着目原子の周りの3D原子配列が直接見えたことから、今後のこの分野の飛躍的な発展が期待できます。また、領域の象徴的なテーマであるSi結晶やダイヤモンド結晶中のドーパントの周りの3D原子配列解析にも世界で初めて成功し、従来考えられていた置換サイトと格子間サイトの他に、歪んだ置換サイトという新しい構造を直接確認することができました。これらの新しい構造は理論的にも予想されていなかったもので、このような発見から新しい局所構造科学や新機能材料が創成されると考えています。
「原子分解能ホログラフィー」がSzökeによって提唱されてから今年でちょうど30年になります。X線結晶学の歴史が100年なのに比べるとまだまだ発展段階ですが、本領域が始まったことによって、その発展速度は非常に速くなっています。残りの2年半の間に、新学理、新産業の創出に向けた新しい知識の蓄積を加速度的に進めていきたいと思っておりますので、今後ともご指導ご支援のほど、よろしくお願い致します。